
板五製材有限会社
板五製材は、社名に「製材」を冠しているものの、事業内容は製材にとどまらず、小屋や家具、各種備品など、木に関わるあらゆる製品の製作を手がけている点が特徴です。
木材の人工乾燥機に関しては、自社設備がないため近隣の製材所に依頼していますが、原木の調達から加工、製品として仕上げるまでの一貫生産が可能であり、幅広い木工需要に応える体制が整っています。

(板五製材有限会社 代表取締役社長 田中氏)
無垢材は乾燥工程に長い時間を要するため、自社で集成材をあらかじめ大量に作製し、ストックしておくことで、依頼発生時にすぐ加工に取りかかれる体制を整えています。この仕組みにより、通常1〜2か月かかる納期を大幅に短縮できるとのこと。
集成材は加工性に優れ、薄い板の成形や細部の調整もしやすいため、製品の用途に応じた柔軟な対応が可能となっています。
3〜4年前から、京都産木材を使用した独自の集成材づくりを開始。木材の圧着工程では押さえが弱いと接着部分が割れる問題がありますが、大型のプレス機の導入によって押圧力を精密に管理できるようになりました。
工場では大型のレーザー加工機を活用し、木材の彫刻、プリント、カットなど多様な加工を行っています。
檜であれば5mm程度の厚さまで切り込みが可能です。彫り込みを深くするほどコストは上がりますが、影をつけるなど表現の幅を広げるためにカット幅を調整するなど、繊細な技術も用いられています。
板五製材の木工技術の中心となるのが、製材機とモルダーです。 製材機:人が乗って操作する帯鋸型の大型製材機で、原木を荒切りする工程を担います。
モルダー:製材後の木材を目的のサイズや形状に仕上げる機械で、上下左右に6枚の刃が配置されています。4面プレナー加工が可能で、刃を交換することで本実加工、曲面加工など多様な形状に対応できます。この技術に対応できる製材所は少なく、他社からの外注依頼も多いとのこと。
その他にも、大型ベルトサンダーによる表面研磨やバンドソー、ほぞ取り機など多様な木工機器が揃っておりますが、最終的な仕上げは手作業で丁寧に行われます。木目の凹凸を際立たせる浮造り加工にも対応し、用途に応じた高い技術力を備えています。

(工場内の様々な機械を一つ一つ用途や仕上がりを丁寧に説明する田中氏)
同社の見学を通して、製材から製品加工までを一貫して行う体制が、木材の特性を最大限に活かしたものづくりを支えていることを強く感じました。
集成材の自社製造やレーザー加工機の活用、多様な専用機械による精密な加工など、伝統的な技術と現代的な設備が融合した現場は非常に印象的でした。
葵工芸
京都市右京区京北の山あい、静かな自然に包まれた場所にひっそりと佇む工房では、主に北山杉を活用した多種多様な木工製品が制作されています。工房の中には温かみのある木の香りが漂い、ところ狭しと並ぶ作品の数々が訪れる人を迎え入れます。

(葵工芸 代表 蒲生 氏)
毎年の干支を形取った置物をはじめ、ほのかな光を透かす照明、正月の風物詩である鏡餅、愛らしい表情の雛人形、さらには日用品としての箸や伝統を感じさせる提灯など、暮らしに寄り添う多彩な小物が揃っています。

(北山丸太を活用した干支や鏡餅、こいのぼりなどの作品が並ぶ工房)
製品には、北山丸太特有の美しい表面の質感や、自然が生み出した滑らかな曲線や凹凸が巧みに活かされており、素材そのものの魅力を引き出すための工夫やこだわりが随所に見られます。
特に干支の置物は、毎年9月から制作が始まり、約800〜1000個もの数を手作業で生み出すという大規模な制作です。ひとつひとつ形を整え、木目や風合いを見極めながら仕上げられる工程には、熟練した職人の技術と根気、そして木に対する深い愛情が感じられました。
小物の制作に加え、テーブルなどの大型家具も手がけており、注文に応じた一点ものの制作にも柔軟に対応しています。製品の多くは一般の個人からの注文品である一方、問屋への納品やデパートでの直接販売、地域の拠点である道の駅ウッディ京北での販売など、多様な流通ルートを持っている点も特徴的です。また、制作過程で生まれる端材も無駄にせず、DIY向けの加工用端材として販売しており、こちらもウッディ京北では特に人気が高く、地域の木材利用を促す役割も果たしています。
工房では、制作の多くを蒲生氏が一人で担当しており、塗装作業はご家族が協力するなど、家族ぐるみの運営が行われています。工房の内装に張られた杉板も全て自作であり、空間そのものに木工家としての技術と美意識が息づいていました。工房には糸鋸や帯鋸をはじめとする各種カット機械が揃い、北山杉の丸太に穴を開ける際には特注のドリルビットを使用するなど、用途に応じて最適な機材が整えられている。こうした設備と技術を生かしながら、繊細なデザインから大きな構造物まで対応できる幅広さが工房の強みとなっています。

(商品に合わせて使うドリルの刃の数々)
さらに、依頼内容に応じて新しいアイテムを制作することも多く、常に新たな商品開発に取り組むなど、創意工夫に満ちた姿勢が印象的でした。伝統的な北山杉の価値を守るだけでなく、現代の生活に合った新しい表現を模索し続けている様子が伺えました。
一般社団法人 京都北山杉の里総合センター
京都北山杉の里総合センターは、北山杉・北山丸太の生産地である北山林業地域の振興を目的に平成22年オープン。北山丸太や京都の木材をふんだんに使用したパブリック施設で、様々な種類の北山丸太を展示し、北山杉・北山丸太に関する研修、修学旅行の受け入れを行なっています。
今回、同センターでは、北山杉の育成方法や加工技術について詳しい説明を受け、台杉と呼ばれる独特の育林方法の魅力に触れることができました。

(一般社団法人 京都北山杉の里総合センター 事務局長 松本氏)
台杉は一本の木から複数回にわたり材を収穫できるという特徴を持ち、伐採後も再び芽吹く性質を備えているため、サステナブルな林業の観点から近年特に注目を集めています。広葉樹では取り木による増殖が用いられることが多いですが、針葉樹で同様の方法が成立することは極めて珍しく、北山杉の持つ特異な性質が地域の林業文化を支えていることが分かりました。
北山杉の伐採適期は、水の吸い上げが止まり木肌が締まってくる夏から秋にかけてであり、この時期に皮を剥くことで美しい色艶をもつ丸太となります。時期が早いと樹液が固まっておらず赤みが強く出てしまうため、素材としての品質を確保するためにも適切なタイミングの見極めが重要です。皮剥きの作業は、枝の硬い部分を利用したヘラを皮と幹の間に差し込み、繊維方向へと滑らせるようにして行われます。熟練を要する工程であり、木の性質を理解した上で丁寧に作業を進める必要があります。

(丸太の皮剥き作業の様子)
皮剥き後の磨き工程については、滝つぼに溜まった流砂を研磨剤として用いて丸太を磨いていたことから磨き丸太と呼ばれるようになりました。この砂は磨くにつれて粒子が潰れ泥のように柔らかくなるため、木を傷つけることなく表面を美しく仕上げることができるとのこと。現在では水圧による処理が主流となりつつあるものの、自然素材を活かした伝統的な研磨方法の合理性と工夫には深い歴史が感じられました。また、上部の枝葉は最終的に切り落とすものの、乾燥の段階では付けたままにする葉枯らしという技法が一般的であるなど、木の品質を高めるための独自の工程が随所に見られました。

(砂磨き体験)
ワークショップでは、昔ながらの北山杉加工の一連の工程を実際に体験することができ、非常に貴重な学びとなりました。垂木を切るところから始まり、皮を剥き、砂で磨き上げるまでの作業を体験することで、職人が日常的に行っている作業の精巧さと奥深さを実感することができました。特に皮剥きの瞬間は、幹から一気に皮が離れる感覚が心地良く、参加者の間でも好評でした。また、磨きの工程では磨けば磨くほど木が輝きを増し、北山杉特有のツヤと光沢が浮かび上がる様子を間近で確認することができました。
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今回、一連の見学を通して北山杉を中心とした地域の林業・木材産業が、伝統に裏打ちされた確かな技術と、時代に応じて柔軟に進化するものづくりの精神によって支えられていることが実感できました。
原木の育成・管理から、製材、加工、家具製作、さらには小物づくりに至るまで、それぞれの現場には独自の技術と工夫が息づき、地域の自然資源を最大限に活かそうとする高い意識が共通していました。
また、地域材の新たな価値創造やサステナブルな育林方法、現代の暮らしに応じた製品開発など、多様な取り組みが進められていることも印象的です。
伝統と革新が響き合う京都の木の文化に触れる本ツアーは、木材への理解を深めるだけでなく、地域とものづくりの可能性を再認識する貴重な機会となりました。