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第2回プロダクト部会パートナー訪問ツアーの実施(前編)

2026年2月6日

令和7年11月28日(金)、第2回 木と暮らすデザインKYOTO プロダクト部会パートナー訪問ツアーを実施しました。

ツアー当日は、株式会社アラキ工務店の施工現場をはじめ、有限会社竹平商店の倉庫、有限会社京北商会の製材所、そして京都木材会館の計4カ所を巡り、参加者25名とともに見学・意見交換を行いました。

本ツアーでは、京都の木材が建築や製品として形づくられる過程を実際の現場で体感しながら、地域に根ざした事業者それぞれの役割や連携のあり方について理解を深める貴重な機会となりました。

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株式会社アラキ工務店

株式会社アラキ工務店は、京都で創業してから100年を迎える老舗の工務店で、長年にわたり京都の住まいづくりを支えてきた確かな技術力を持つ工務店です。

以前は分譲住宅や建売住宅といった一般的な住宅も手がけていましたが、現在は仕事の約9割を京町家の改修に特化しています。

京町家は、長い年月を経て歪みや傷みが生じていることが多く、現代の住宅とは異なる知識と経験が求められます。

(「古いものを壊して新しくする」のではなく、「建物の歴史や魅力を活かしながら、今の暮らしに合う形へと整える」ことを大切にしていると語る荒木社長)

現在は従業員24名、そのうち16名が実際に現場で家づくりを担う大工として活躍しています。同社には現在4名の女性大工が在籍しており、性別に関係なく技術力で評価される環境が整っている点も大きな特徴です。その中の一人は、鉋(かんな)削りの全国大会女性の部で見事優勝した実績をもちます。

全国的に見ると、大工の平均年齢は60代と高齢化が進んでおり、20代の大工は約2万人しかいません。その中で、のみ、鉋をきちんと扱える人材は約2,000人程度に限られると言われています。こうした現状を踏まえ、同社では就業時間外に若手が自主的に参加する勉強会を開き、図面の読み方や伝統的な技術を学ぶ機会を設けています。荒木社長は、若手大工の育成と技術継承の重要性についても強く語り、目先の仕事だけでなく、次の世代へ技術をつなぐことを見据えた取り組みが続けられています。 

また、アラキ工務店の古材倉庫には、約1,200点以上に及ぶ京町家の古い建具が丁寧に保管されており、町家改修に欠かせない重要な資源として位置づけられています。

京町家の建具は、高さ5尺7寸(約173cm)という昔ながらの規格で作られているため、現代の住宅で一般的に流通している建具とは寸法が合わない場合が多いとのこと。さらに、こうした伝統的な建具を新たに製作できる職人は後継者不足により年々減少しており、必要なサイズや意匠を当時と同じ技術で新調すること自体が難しくなっているのが現状です。

このような背景から、京町家の改修工事では、解体現場などから状態の良い古建具を確保し、再利用することが不可欠となっています。同社では、単に建具を集めて保管するだけでなく、将来の改修需要を見据えて計画的に収集・管理を行い、それぞれの建具が再び使われることを前提とした「生きた資材」として扱っている点が特徴的です。必要に応じて調整や補修を施しながら、元の町家に馴染むかたちで再生させる姿勢からは、長く使い続けることを前提としたものづくりへの強い意識が感じられました。

今回見学させて頂いた京町家改修の現場は、昭和12年築、築約80年の建物で、延床面積189㎡(約57坪)という比較的大きな町家です。施主さんからの、現代の生活に合わせた具体的な希望を一つひとつ整理しながら、町家らしさを損なわない改修計画が進められています。

(今回特別に、施工現場を見学させて頂く参加者)

外観を変えずに住み心地を良くする工夫として、既存の建具の内側にアルミサッシや樹脂サッシのペアガラスを設置し、断熱性能を高めている点も印象的でした。基礎や柱、建物の傾きまで含めて全面的に直す「フルコース」の町家改修は、新築住宅と同程度の費用がかかる場合もあるという説明があり、町家を残すことの価値と同時に、その覚悟と技術を強く感じる機会となりました。

火袋に代表される京町家特有の空間構成や、自然の光や風をうまく取り入れる先人の知恵を含め、今回の見学は、京町家改修が単なる修理ではなく、伝統と現代の暮らしをつなぐ高度なものづくりであることを実感させる内容でした。

古い京町家は、もともと隣家と隙間なく建ち並び、互いに支え合うような関係の中で長い年月を経てきました。しかし近年では、周囲の建物が取り壊されて駐車場や空き地になるケースも増え、これまで寄りかかるように存在していた部分が失われたことで、建物全体に歪みや傾きが生じている町家も少なくありません。

そうした影響は建物の構造だけでなく、内部の建具にも及び、歪んだ建物に合わせて過去に削られた結果、本来の寸法より高さが足りなくなっている建具が多く見られます。

このような状況に対し、アラキ工務店では建具を新しく作り替えるのではなく、「下駄履き」や「足入れ」と呼ばれる伝統的な補修方法を用いて対応しています。

これは、建具の下部に新たな木材を継ぎ足し、高さを調整する技法であり、元の建具が持つ風合いや意匠を損なわないよう、木目や色味を見極めながら丁寧に仕上げる必要があります。完成後は継ぎ足した部分がほとんど分からないほど自然に馴染み、建具本来の姿を取り戻します。

こうした作業は、見た目には気づきにくい部分ですが、町家の歴史や佇まいを守るために欠かせない重要な工程です。建物の歪みを受け止めながら、古い素材を活かし続けるための工夫と技術が随所に凝縮されており、アラキ工務店の町家改修が単なる修繕ではなく、文化や時間を受け継ぐ仕事であることを強く感じました。

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有限会社竹平商店

有限会社竹平商店への訪問では、私たちにとって身近な素材である「竹」が、非常に奥深い文化と高度な技術に支えられていることを学ぶ機会となりました。普段の生活では意識することの少ない竹ですが、京都の町並みや日本の美意識と密接につながっている素材であることを、改めて実感する時間となりました。

竹平商店は1915年創業、100年以上の歴史を持つ「銘竹屋(めいちくや)」です。銘竹屋とは、単に竹を売るのではなく、色や太さ、節の形、表面の模様など、一本一本異なる竹の個性を見極め、建築や工芸、空間づくりに最もふさわしい竹を選び出す専門家のことです。同じ種類の竹であっても、まったく同じ表情のものは存在せず、その違いを読み取る目と経験があるからこそできる仕事だと感じました。

(倉庫にズラリと並ぶ竹を丁寧に説明してくださる利田社長)

 

なかでも重要な素材の一つとして紹介されたのが、日本固有の竹である「真竹(まだけ)」です。真竹は縄文時代から日本に自生してきた竹で、京都はその代表的な産地の一つとされています。京都特有の冬の底冷えと夏の蒸し暑さという寒暖差の大きい気候、そして水はけのよい土壌が、繊維がきめ細かく美しい真竹を育てる条件に適しています。

また、竹の大きな特徴として、成長の早さが紹介されました。竹はわずか2〜3か月ほどで成長を終えます。その時に決まった太さや長さが一生変わらないため、非常に合理的で無駄のない自然素材です。短期間で育ち、繰り返し利用できる点からも、竹は持続可能な素材として改めて注目されています。

(様々な用途に分けて管理される竹の数に驚く参加者たち)

一方で、竹は切っただけでは建築材や製品として使うことはできません。「油抜き」や「矯正」といった加工工程が必要です。伐採したばかりの竹には油分や水分が多く含まれており、そのままでは内装材や工芸用材としての美観や強度を確保する事が難しい状態にあります。竹平商店で扱う竹は、弱い火でじっくりと炙り、竹の内側からにじみ出てくる油を布で拭き取ることで、素材として安定した状態に仕上げられた後、一ヶ月程の天日干しが行われ、さらに熱を加えながら曲がりを一本一本丁寧に直されるという、熟練の技術を経たものです。このように、時間と手間をかけることで、竹は初めて建築や工芸に使える「材料」になります。

特に印象に残ったのが「煤竹(すすだけ)」の話です。煤竹とは、茅葺き屋根の古民家で使われていた竹が、囲炉裏の煙に180年から200年もの長い年月燻されることで生まれる竹です。煙によって色づいた煤竹は、深みのある茶褐色をまとい、一本一本異なる模様を持ちます。これは人為的に作れるものではなく、暮らしの時間がそのまま刻み込まれた素材だという説明に、竹という素材の奥深さを感じました。良質な煤竹は古民家一棟からごくわずかしか取れず、現在では新たに生み出すことがほぼ不可能な、非常に貴重な素材となっています。

さらに、京都の街並みを形づくる竹の使われ方についても紹介されました。町家の前に設けられる「犬矢来(いぬやらい)※“駒寄せ”と呼ぶ事もある」は、見た目の美しさだけでなく、馬や犬から建物を守る、防犯性を高めるといった実用的な役割を持っています。竹は「割りやすい・削りやすい・曲げやすい」という特性を持つため、こうした形状に非常に適しており、機能とデザインが自然に両立していることが分かりました。

ビジネスの面でも、竹平商店の取り組みは時代に合わせて進化しています。かつては国内向けの卸売りが中心でしたが、1995年という早い時期からインターネットを活用し、英語のウェブサイトを通じて海外との取引を開始しました。現在では、アメリカやヨーロッパ、アジア各国から問い合わせがあり、空間や用途を丁寧に聞き取ったうえで、最適な竹を選び出して提供しています。海外にも竹は存在するが、一本一本の美しさを見極め、装飾材として価値を与える「銘竹」という考え方は日本独自のものであり、その点が高く評価されていることが伝わってきました。

今回の訪問を通じて、竹は単なる自然素材ではなく、長い時間、職人の技、そして日本人の美意識が重なり合って価値を持つ素材であることを実感しました。竹平商店の仕事は、素材を扱うだけでなく、京都の文化や感性を次の世代、さらには世界へと伝えていく営みそのものであり、竹にはまだまだ可能性があると感じることができた訪問でした。

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「後編」につづく