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木と暮らすデザインKYOTO木育イベント「木育学校」を開催しました(前編)

2026年3月31日

森から学び、森と生きる、特別な1日

令和8年1月18日、FabCafe Kyotoにて、木と暮らすデザインKYOTO木育イベント「木育学校」を開催しました。

本イベントは、京都の森や里山、林業、そして私たちの暮らしとのつながりを、学びと体験を通して総合的に伝える1日限りの“学校”で、理科・給食・社会・図工・美術という5つの授業を通じて、子どもから大人まで幅広い世代の皆さまにご参加いただきました。

京都は、東・北・西の三方向を山々に囲まれ、街なかにも社寺の森が点在する、自然と都市が近接した街です。本イベントでは、その地理的・文化的特性を活かしながら、「森の循環」「里山の暮らし」「林業と都市の歴史」「木を使うことの意味」「森の未来づくり」までを一貫して学びました。

1時間目:理科 森の循環のお話とガーランドづくり

講師:きょうと生物多様性センター 重原先生

理科の授業では、きょうと生物多様性センターの重原先生を講師にお迎えし、私たちの身近にある森の仕組みや「生物多様性」について学びました。

普段何気なく目にしている木や落ち葉が、実は大きな循環の一部であることを、わかりやすい解説と観察を通して教えていただきました。

(講師の重原先生)

京都は三方を山に囲まれた地形を持ち、自然と都市が近接している街です。人の立ち入らない「奥山」にはクマやシカ、イノシシなどの大型動物が生息している一方、人の暮らしに近い「里山」ではカエルやメダカ、さらに街なかではスズメやハトといったように、生き物によって好む環境が異なります。生きものは「どこでも同じように生きられる」のではなく、「自分達に合った場所」を選びながら命をつないでいます。

授業では、秋の森を象徴する「落ち葉」にも注目しました。紅葉してやがて地面を覆う落ち葉は、単なる季節の風景ではありません。冬は日差しが弱まり、光合成で作るエネルギーよりも葉を維持するエネルギーの方が多くなってしまいます。そのため、植物は葉を落としてエネルギー消費を抑え、蓄えを使って冬を越します。森では1ヘクタールあたり、約3トンもの葉が毎年落ちています。

しかし、落ち葉はただ積もって終わりではありません。ミミズやダンゴムシなどの小さな生きものが葉を食べ、さらに目に見えない微生物が分解することで、落ち葉は再び植物の栄養へと還ります。この循環はやがて雨水とともに川へ、そして海へとつながり、あらゆる生命を支える基盤となっています。森の中で起きている小さな営みが、実は広大な自然の循環を支えています。

また、日本の森に多く見られるクヌギやアラカシ、イチガシなど、どんぐりを実らせる木々の役割についても学びました。どんぐりはクマやイノシシ、リスなどにとって重要な食料です。実を食べる動物が増えれば、それを捕食する動物も影響を受けます。このように「実をつける木」「それを食べる動物」「さらにそれを取り巻く環境」が複雑に関わり合うことで、生態系のバランスが保たれています。こうした生きものの繋がりが「生物多様性」であることを学びました。

講義の後半では、森の素材を使ったガーランドづくりを行いました。机の上には、サクラやイチョウ、クヌギ、エノキの落ち葉、アラカシやスダジイのどんぐり、小枝やツルなど、森から集められた多彩な素材が並びます。参加者はそれぞれの葉の形や色の違いを観察し、どんぐりの帽子の模様を比べ、手触りや香りを確かめながら素材を選びました。

(ガーランド作りの様子)

(ガーランド作りの様子)

ワイヤーで一つひとつ丁寧につなぎ合わせていくと、自然の造形を活かした個性豊かな作品が生まれていきます。森に「同じ形の葉がない」ように、作品にもそれぞれの個性が表れます。

今回の授業は、森を「知識」として学ぶだけでなく、「見て・触れて・感じて」理解する時間となりました。落ち葉一枚にも意味があり、小さな生きものの働きが森全体を支えていることを知ることで、身近な自然への見方が少し変わったのではないでしょうか。森の循環を学び、その一部を作品として持ち帰る。理科と創作が結びついた、実りある学びの時間となりました。

・・・

給食:里山弁当と里山の食材のお話

講師:まーる 鈴木先生

給食の時間には、京北へ移住して8年目となる鈴木先生を講師にお迎えし、里山の暮らしと食について学びました。森と食がどのようにつながっているのかを体感できる、大切な学びの時間となりました。

今回の給食は、京北の旬の食材をふんだんに使った「創作タコライス風 里山弁当」です。一見すると親しみやすいメニューですが、その一品一品の背景には、京北の風景と人々の営みが息づいています。

(今回の給食)

メインは、今週獲れたばかりの鹿肉を使ったカレー風味のそぼろ。京北地域では近年、鹿の増加による農作物被害が深刻化しており、田畑を守るために年間約500頭もの鹿が捕獲されています。鈴木さんは、「ただ駆除するのではなく、命をいただくという姿勢を大切にしたい」と語ります。適切に処理された鹿肉は臭みも少なく、やわらかく、旨味が凝縮されています。命を無駄にせず、地域資源として活かす取り組みの一端を味覚を通して学ぶ機会となりました。

(給食を頂く参加者)

野菜は、ベビーリーフやあやめ雪かぶ、ももたろうかぶ、はたけしめじなど、京北の若手からベテランまで多様な農家が育てた旬の食材を使用しています。それぞれの野菜には作り手の個性があり、土壌や気候、日照条件によっても味わいが異なります。卵は地域の養鶏家から届いた新鮮なもの、お米は里山の景観を守るために広大な田を耕し続ける農業法人のものを使用しています。

鈴木先生は、自ら描いたイラストを用いながら里山の構造について解説。里山は単に自然豊かな場所というだけではなく、暮らしを支えるために合理的に設計された空間でもあります。

(講師の鈴木先生)

最も日当たりのよい平地には田んぼをつくり、山際のやや日陰になる場所に家を建てる。山から流れる水は水路を通って田畑を潤し、やがて下流の街へと流れていきます。この水路は今も地域の人々の手で清掃・管理され、世代を超えて守られています。里山は、自然の恵みを受け取りながらも、同時に人が手をかけ続けることで成り立っています。

京北では、半径2km圏内で米や野菜、肉、薪までもが手に入る暮らしがあります。鈴木さんは「近い距離で循環する暮らしには、安心感と記憶が宿る」と話します。誰が育て、誰が届けてくれたのかが見える食卓は、単なる栄養摂取の場ではなく、人と人、人と自然を結ぶ時間でもあります。

鈴木先生の屋号「まーる」という言葉には三つの意味が込められています。食べた人の心が“丸く”なること。地域の資源が“循環”し、丸くめぐること。そして食べた人との“ご縁(円)”がつながること。参加者は、料理の背景にある物語や風景を思い描きながら、一口一口を味わいました。

森で育まれた命、田畑で育てられた作物、人の手による営み。そのすべてがつながり、食卓へと届いています。今回の給食は、里山の恵みを味わうと同時に、「食べることは森とつながること」であると実感する、心温まる学びの時間となりました。

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2時間目:社会 みやこの暮らしと京の森のお話

講師:京都森林インストラクター会の上萩先生
   一般社団法人イシダ三方良しの会の野田先生

社会の授業では、京都森林インストラクター会の上萩先生と一般社団法人イシダ三方良しの会の野田先生を講師にお迎えし、京都の森や人の暮らしと森の深いつながりについて学びました。

(上萩先生)

京都市内を眺めてみると、三方を森林に囲まれているのがよく分かります。京都市の4分の3は森林で、航空写真を見ると北の方は森林が広がっています。また北部には天然生林がたくさんあります。                        

みやこの暮らしは、古くからこの森の恵みをたくさん受けてきました。京都にはよい森林があったため、昔から木材が運ばれ利用されてきました。               

例えば、京都市右京区京北で伐採された⽊材は、いかだに組まれて丸太として保津川を下り、保津峡を越えて嵐山へ、そして西高瀬川を通って都の中へと運ばれました。また、いかだの上には燃料の薪が積まれ、一緒に運ばれました。現在も千本通り周辺には木材業者が残っており、北、中、南材木町などの地名がその歴史を伝えています。                            

北山杉の歴史は古く、室町時代からお茶室等に使われて、以前は北山丸太の生産風景がよく見られました。北山杉は今でも京都迎賓館などに使われています。                                         

祇園祭の山鉾も木でできています。山鉾は囃子方(はやしかた)等を乗せると総重量約10トンにも達し、「動く 美術館」と称されていますが、山鉾の重量を支える車輪は、非常に硬く、粘りを持つアカガシで造られています。これまで京都周辺の山ではあまり見られませんでしたが、京都府と滋賀県の県境、如意ヶ岳にある「イシダの森」にアカガシの巨木群があることが最近分かりました。鉾の車輪も都の森の材を使っていたものと推察されます。

建物だけでなくいろいろなところで木材は使われています。指物と言われる家具や調度品、京菓子の木型にはヤマザクラが使われていたりします。これらも周りの森の恵みと言えるでしょう。                                              

電気やガスが普及する前は、燃料は木材が主流でした。鞍馬や広河原などで作られた炭は、鞍馬炭と呼ばれ、みやこの暮らしに欠かせない燃料でした。また大原からは大原女が柴を都に売りに来ていました。                                       

森の恵みは木材だけでなく、様々なものがあります。例えば料理や祇園祭の厄除けちまきで使われるチマキザザも花脊を中心にした地域で生産されています。

(講義に使用された山の恵たち)

このような恵みを与えてくれている森ですが心配事も出てきています。

昔、京都周辺の山は都の人々の利用により伐採され、「禿山」が広がっていました。明治23年の琵琶湖疎水の完成当時の写真と現在の写真を見比べると、木がほとんど生えていないことがわかります。このため1935年には賀茂川大洪水が発生し、鴨川にかかるたくさんの橋が流される等の被害がありました。

しかし、逆に使われなくなったために森が荒れてしまうようなこともあります。     

人工林では、手入れがされなくなったために、真っ暗な森があちこちにできて土砂が流れだしたりしています。また、混みすぎてもやし状になった木は強い風などに弱く、8年前の台風では大きな被害を受けました。                                                             

また、里山のナラ類は15年ぐらいで薪や炭などに利用されていましたが、燃料革命で利用されなくなり、カシノナガキクイムシの被害にあって、京都周辺でたくさん枯れました。                         

シカによる被害も深刻で、幹の周りを食べられて枯れてしまう木も出てきています。 チマキザサの再生の取組も食べられないように柵をしないといけなくなっています。 東山は外から見ていると緑に覆われてとても素晴らしい森のように見えますが、中に入って見るとシカが食べてしまい、シカが嫌いなもの以外ほとんど生えていません。これでは最近注目されている生物多様性をはじめ、森林が持っている様々な働きが損なわれてしまいます。 
                                                           

(野田先生)

イシダの森も過去には大型台風による甚大な風倒木被害を受けましたが、現在、再生に向けた取り組みが着実に進められています。社員や地域住民、子どもたちが参加する植樹活動が行われ、苗木が一本ずつ丁寧に植えられています。さらに、森で採れたどんぐりを育て、苗木にして森へ戻す「里帰りプロジェクト」も推進されており、地域固有の遺伝子を持つアカガシを守り、生態系に根ざした再生を目指しています。将来的には、スギやヒノキといった針葉樹と、アカガシなどの広葉樹が混ざり合う「針広混交林」への転換を目標とし、多様な樹種が共存することで、生物多様性が高まり、災害にも強い森の育成を図っています。

イシダグループの企業理念である「三方良し」(自分良し、相手良し、第三者良し)の精神は、この環境保全活動にも貫かれています。地域社会と連携し、「こども森づくり・体験学習会」なども開催され、子どもたちが森の匂いを感じ、土に触れ、自らの手で苗を植える体験を通じて、自然と共生する感覚を身につける場を提供しています。

森があってみやこがあり、みやこがあって森が守られてきたという関係は、木を使い、手入れをする営みの中で循環し、次の世代へと引き継がれてきました。森は、人との適切な関わりの中でこそ健やかに保たれます。京都の森を百年後も同じように眺められるかどうかは、私たち次第であると改めて気付かされました。

後編へ続く