• TOP
  • トピックス
  • 木と暮らすデザインKYOTO木育イベント「木育学校」を開催しました(後編)
トピックス プロジェクト

木と暮らすデザインKYOTO木育イベント「木育学校」を開催しました(後編)

2026年3月31日

3時間目:図工 コースターづくりと杣木のお話

講師:岩井木材 岩井先生

3時間目の図工では、現役の林業従事者である岩井先生を講師にお迎えし、京都の林業の歴史や山の管理の仕組みについて学びました。森を「守り、育て、使う」という視点を知る時間となりました。

まず紹介されたのが「杣山(そまやま)」という言葉です。杣山とは、建築用材を安定的に供給するために計画的に管理された山のことを指します。古くは寺社仏閣や城郭、都の造営に必要な木材を供給する重要な資源の山として位置づけられてきました。京都では、平安遷都の時代から北部の山々で木が育てられ、都の建築文化を支えてきた歴史があります。

(講師の岩井先生)

杣山の管理は、長い年月をかけて行われます。まず苗木を植える「植林」から始まり、下草を刈り取る「育林」、木々の成長を促すために一部を間引く「間伐」、成熟した木を伐採する「主伐」、そして再び苗を植える「再造林」へと続きます。この循環は数十年から百年以上に及ぶこともあり、林業は世代を超えて引き継がれる仕事です。スギやヒノキなど成長が比較的早く、建築材として価値の高い樹種が中心に植えられるため、生物多様性は里山に比べると低くなりますが、その分、安定した産業資源として都市の暮らしを支えています。

これに対し、「里山」は薪炭や食料、肥料など、日々の暮らしに必要な資源を得るための山です。里山には、雑木や実のなる木が多く多様な動植物が生息し、生物多様性が豊かな環境が広がります。このように、人の暮らしと森は、用途や関わり方によってさまざまな形をとってきました。

しかし、京都府内の林業従事者はこの10年で約200人減少しており、担い手不足が深刻な課題となっています。手入れが行き届かない山では木々が過密状態となり、光が入らず下草が育たないため、土壌が弱り、災害のリスクが高まることもあります。山を健全に保つためには、木を「使う」必要があり、木材利用が森の再生につながるという視点が重要です。

現在、京都市内産のスギやヒノキのうち、産地証明を受けた材は「みやこ杣木(そまぎ)」として認証され、地元の木を地元で使う取り組みが進められています。

講義の後はいよいよクラフト体験です。参加者は京都産のスギとヒノキから好きな材を選び、コースターづくりに挑戦しました。スギはやわらかく軽やかな手触りが特徴で、ヒノキは緻密で香りが高いのが魅力です。木目の違いや色味の差を見比べながら、自分の好みの材を選ぶ時間も学びの一つとなりました。

ノコギリを使う際には、「押すのではなく、引くときに力を入れる」という基本のコツを教わりました。最初はおそるおそる刃を動かしていた子どもたちも、次第にリズムをつかみ、真剣な表情で木と向き合います。切り出した断面をヤスリで丁寧に磨いていくと、ざらざらしていた表面がなめらかになり、木肌が美しく浮かび上がります。

(コースターづくりの様子)

作業中、会場にはヒノキのさわやかな香りが広がり、「いい匂いがする」「森のにおいがする」といった声も聞かれ、五感を通して木の魅力を感じる時間となりました。今回のコースターは、同じ材料から作られていても、一つとして同じ形はありません。少し角を残したデザインや、丸みを強調した形など、それぞれ作り手の工夫が光る作品となりました。 森で育った木が、長い年月を経て私たちの手元に届き、暮らしの道具へと姿を変える。その過程を知り、自らの手で加工する体験は、木材をより身近な存在にしてくれます。図工の時間は、単なるものづくりにとどまらず、森と人とのつながりを体感する学びの時間となりました。

4時間目:美術 小人のおうちづくりとお茶会

講師:アトリエforia 小林先生

木育学校の締めくくりとなる4時間目は、美術の授業です。講師にはアトリエForiaの小林先生と林業女子会@京都の皆さんをお迎えし、森の恵みを五感で味わいながら、創造力を膨らませる時間となりました。

授業のはじまりは、森の香りに包まれるお茶会から。

京北エリアに自生するクロモジの枝葉を乾燥させた「クロモジ茶」をいただきました。爽やかな香りが特徴で、地元の「樹々の会」によって作られています。クロモジは古くから楊枝や香りの素材としても使われてきた木で、その清々しい風味は森そのものを感じさせてくれます。

あわせてご用意いただいたのはハチミツです。今回は、とちの木の花から採れたさらりとした口当たりの「とち蜜」と、さまざまな花から集められたコクのある「百花蜜」の2種類を味わいました。

ミツバチが森や野山を飛び回り、花から花へと移動することで受粉が行われ、木々は実を結びます。森の実りはミツバチの働きによって支えられていること、そして私たちが口にするハチミツもまた森の循環の一部であることを学びました。小さな生きものの働きが、大きな自然の営みにつながっていることに、参加者は静かに耳を傾けていました。

(講師の小林先生)

続いて、日本の森が抱える課題についてクイズ形式で解説がありました。テーマは「間伐」。間伐とは、密集して生えた木の一部を計画的に伐採し、残った木に十分な光と栄養を行き渡らせる作業です。野菜の間引きと同じように、森にも適切な手入れが必要です。木が使われず放置されると、森の中は暗くなり、下草が育たず、土壌が弱ってしまいます。光が届かない森では多様な生きものも暮らしにくくなります。間伐を行い、森に光を届けることが、健全な森を育て、災害を防ぐことにもつながるのです。

学びを深めながら、クラフト体験を進めます。間伐で出た木の端材を土台に、杉の葉やヒカゲノカズラ、どんぐりの帽子、小枝、木の実など、さまざまな自然素材を自由に組み合わせて「小人の家」をつくりました。素材の形や色をよく観察しながら、ボンドで貼り合わせたり、ペンで模様を描いたりと、それぞれの発想が形になっていきます。屋根に杉葉を重ねた家、どんぐり帽子を煙突に見立てた家、小枝で柵を作った家など、どれも個性あふれる作品ばかり。同じ材料を使っていても、完成した家は一つとして同じものがありません。

(小人のおうちづくりの様子)

(色々な素材にどれを使おうか迷います)

さらに、小林先生が関わる里山再生活動の事例も紹介されました。荒れてしまった森を整備し、人が集まる空間を作り、その収益を森の整備費用に充てる取り組みです。「遊ぶことが森の再生につながる」という新しい循環の形が生まれています。

森の香りを味わい、森の課題を知り、森の素材で創作する。美術の授業は、楽しみながら森との関わり方を考える時間となりました。作品とともに、森とのつながりも心に持ち帰る締めくくりのひとときとなりました。



おわりに

今回の「木育学校」は、森の循環を学ぶ理科の授業から始まり、里山の食文化に触れる給食の時間、京都の森林と歴史を知る社会の授業、林業と木材利用を体験する図工、そして森の恵みを五感で味わい創造へとつなげる美術の時間まで、一日を通して多角的に森を学ぶ総合学習の場となりました。

それぞれの授業は異なる切り口を持ちながらも、根底には共通するメッセージがあります。それは、「森は循環している」ということ、そして「その循環の一部に私たちもいる」ということです。

森はただ守る対象でも、ただ利用する資源でもありません。人が適切に関わり、手を入れ、使い、次世代へとつないでいくことで健全な状態が保たれます。木を使うことが森を育てることにつながり、食べることが里山を支え、学ぶことが未来の担い手を育てます。

「木育学校」は1日のイベントでしたが、その学びはこれからの暮らしの中で続いていきます。森は一年で育つものではありません。何十年、何百年という時間をかけて成長します。同じように、森との関係も一朝一夕で築かれるものではなく、世代を超えて受け継がれていくものです。今回の体験が、参加者の皆さまの中でゆっくりと芽吹き、やがて新しい行動へとつながっていくことを願っています。

今後も「木と暮らすデザインKYOTO」は、京都の森と人をつなぐ活動を継続し、森の魅力を伝える学びの場づくり、地域の林業や里山と連携した取り組み、人々が自然と触れ合える機会の創出など、多様な形で森と人との接点を広げていきたいと考えています。