
今年1月、京都・河原町五条のFabCafe Kyotoで開催された「木育学校」。
そこで講師を務めたのが、アトリエForiaの名で、森や自然を舞台にしたワークショップや空間づくりを行う小林さんです。
ワークショップ「小人の家づくり」で使われた木材は、現在進行中の森林再生プロジェクト「こもりの庭」の現場から生まれた間伐材でした。
今回私たちは、小林さんの活動拠点のひとつである京都府立山城総合運動公園(太陽が丘)を訪れ、森への思いと「こもりの庭」の取り組みについて話を伺いました。

(木育学校で行われた小人の家づくりの様子)
〜アトリエForia ― 森を「好きになる入口」をつくる〜
小林さんはアトリエForiaという名前で、いろんな人に森や自然をもっと身近に感じてもらうために、体験・表現・場づくりを展開しています。
2026年4月に愛知に拠点を移しつつも、京都での活動も続けています。
目指しているのは、森を思わず入りたくなる場所、過ごしたくなる場所としてひらくことです。
具体的には、間伐材や自然素材を使ったワークショップの企画運営、森でのイベントや空間演出などを行っています。
「かわいい」「楽しそう」「この場所に行ってみたい」という感情を入口にし、そこから森や木の循環、自然との関わりに関心が広がる流れを大切にしています。
森で出た木を使ったワークショップや空間づくりを行い、その体験を通して再び森へ足を運びたくなるきっかけをつくっています。
また、絵本の中に出てくるようなファンタジーの世界を、現実の森の中で体験できるようにすることも、アトリエForiaの特徴的な取り組みの一つです。

(アトリエforia の小林さん)
「foria」という名前は、Forest(森)の響きと、philia(愛好)を掛け合わせた造語です。
まずは「なんとなく好き」「なんだか気になる」という感情から森との関係から始まってもいいのではないか。そんな思いが込められています。
〜原点は幼少期の記憶〜
そんな森の体験をつくる小林さんの原点は、愛知県豊橋で過ごした子ども時代にあります。実家の隣には小さな林があり、そこが日常の遊び場でした。
枝を拾って遊び道具にし、葉っぱで秘密基地をつくる。遊具がなくても、森そのものが遊びの場だったといいます。そのときに感じた楽しさや少しの冒険心が、今の活動の土台になっています。
大学では、森の教育的な価値について学び、「森のようちえん」にも関心を持ちました。最初は遊び方が分からなかった子どもたちが、森の中で過ごすうちに、自分で遊びを生み出すようになる姿を見て、森には人の創造性を引き出す力があると実感したといいます。
一方で、現代では森と人との距離が広がっているとも感じていると言います。 「環境のために守ろう、という言葉だけでは、森に関心がない人には届きにくいと思っています。」
そこで小林さんが大切にしているのは、まず森に親しむきっかけをつくることです。
〜森は「物語の舞台」にもなる〜
小林さんは以前、森のアスレチック事業会社で約5年間勤務し、企画や運営に携わっていました。
その中でも特に印象に残っているのが、京都府京北で地域の事業所の若手メンバーと共に行った、「おとぎの森のぼうけん」という物語型の体験プログラムです。
この企画では、子どもたちが地図を片手に森の中を探検し、絵本の中に出てきた世界を実際に体験していきます。
登場人物に扮したキャストが森の中に現れ、植物の豆知識や土地に伝わる伝承などを、物語の流れに沿って楽しく伝えていきました。

(おとぎの森の地図を片手に、絵本の中に出てきた世界を体験する子ども向けイベント:2024年7月14日)
この経験を通して、小林さんは「森は、物語の舞台になり得る」と改めて強く感じたといいます。
森の中には、曲がった道や、落ち葉、鳥の声、少し暗い木陰など、「何かありそう」と感じる要素がたくさんあります。童話やファンタジー作品で森がよく登場するのも、森がただの背景ではなく、冒険や発見が起こる場所として描きやすいからではないかと小林さんは考えています。
また、森で「楽しかった」という体験が、成長したあとに「あの時、こんなことをしたな」と思い出せる記憶として残ることも大切にしたいと話します。
今でも当時参加した子どもに会うと、登場人物の名前を出しながら森の話をしてくれることがあるそうです。
〜年間100万人が訪れる公園、その裏側で〜
山城総合運動公園(通称太陽が丘)は1982年(昭和57年)に開園。総面積約108ヘクタールという広大な敷地に運動施設が整備され、年間を通してさまざまな大会やイベントが開催されています。
近年はキャンプ場やジップラインなどのアウトドア施設も加わり、年間およそ100万人が訪れる人気スポットです。
しかし、そのにぎわいの一方で、公園を囲む森には課題がありました。
もともと里山だった広大な敷地の中には、管理が十分に行き届かないエリアもありました。やぶに覆われ、遊具が見えにくくなっている場所や、枯れ木が目立つ場所もあったといいます。

(管理が行き届かず、かつての遊歩道が消えていた:2025年6月)
そこで立ち上がったのが、公園内未利用地の活用プロジェクト。危険木の伐採や森の整備を、公益財団法人京都府公園公社とTRIATE株式会社とともに進めています。
アトリエForiaはこのプロジェクトで、空間全体のコンセプト設計やイベント企画を担当しています。
〜ただ整えるのではなく、“また来たくなる森”へ〜
小林さんたちが目指しているのは、単なる安全対策としての森林整備ではありません。
「森に親しみのない人でも、カフェに立ち寄るような感覚で気軽に来られる場所にしたいんです。そこから、森のことを考えたり、好きになるきっかけが生まれたら嬉しいです。」

(明るくなった森を案内頂きました)
実際に整備が進むにつれ、暗く入りづらかった森には光が入り、見通しも良くなり、少しずつ立ち寄りたくなる場所へと変わり始めています。
倒木や伐採した木はベンチや階段として再利用。あえて防腐剤を塗らず、木が朽ちていく過程も含めて森の時間として受け入れます。やぶの中からは巨大な鉄琴など、かつての遊具も発見され、修復し再び子どもたちの遊び場になりました。
そして小林さんは、この場所を「こもりの庭」と名付けました。木漏れ日の中で、こもる、守られる、包まれる。そんな響きを持つ名前です。

(やぶの中に埋もれていた巨大な鉄琴を修理・再生)

(森の中に点在する、間伐材の階段、オブジェや木のおもちゃ)

(森の奥の本棚。散歩の途中に、ふらっと立ち寄れる)
〜春の木育ひろば ― 森で遊び、つくり、過ごす実験〜
2026年3月、「こもりの庭」を会場に、「春の木育ひろば」が公益財団法人京都府公園公社とTRIATE株式会社の主催で開催されました。
小林さんはアトリエForiaとして全体企画を担当し、整備が進んだ「こもりの庭」をお披露目する場として、体験型イベントを構成しました。
当日は、森の中で自由に遊べる空間に加え、クラフト体験やシャボン玉遊び、フードトラックなども展開。子どもたちは木のおもちゃで遊び、大人は森の中でゆっくり過ごせる内容となりました。自然素材に触れながら、家族で一日楽しめるイベントです。
さらに、森の中には5名の作家による作品を展示した「森のギャラリー」も登場。歩きながらアートに出会える、こもりの庭ならではの企画となりました。
このイベントの目的は、地域・民間・公園が協力しながら、公園の新しい使い方を試すこと。そして、これまで通り過ぎられていた森に人が入り、その心地よさや面白さを体感してもらうことでした。
期間中は約1,000人が来場し、多くの人が森の中で遊び、過ごし、自然との新しい関わり方を楽しみました。

(来場者でにぎわう「こもりの庭」の様子)
〜森のギャラリーと価値の創出〜
小林さんは、今回の「森のギャラリー」で最も大切にしたことについて、「森を切り拓いて新しいものをつくるのではなく、今ある資源にどう工夫を加え、価値を見つけ直すかという視点です」と話します。
今回声をかけたのは、木や葉、竹、土といった森から生まれた素材で制作している5名の作家たちです。

(自然素材を生かした5名の作家による作品が森の中に点在された)
「森は表現者にとっても奥行きのある場所だと思っています。
光や音、季節の変化まで含めて表現になる。自然と真摯に向き合う人たちと、この場所ならではの表現を試したかった」と語ります。
作品は遊歩道に沿って点在させ、あえて無機質な白い展示台の上に設置しました。
これは空間デザインを担当した京都工芸繊維大学院(当時)の三瀬さんのアイディアで、有機的な自然の中に無機質な要素を置くことで、視線に小さな引っかかりをつくるためです。
「森の中に少しだけ異質なものがあると、人はふと足を止めます。その瞬間に、それまで背景だった森の景色が意味を持って見えてくる。
展示台は、森の価値に気づくためのきっかけでもあります」と小林さん。来場者は作品に出会い、再び森へと視線を戻す。
その往復の中で、森はただ通り過ぎる場所から、立ち止まって見る場所へと変わっていきます。
「新しい施設を建てることではなく、今そこにあるものに新しい見方を加えること。アートという入口があることで、これまで森と接点がなかった人も自然に関わり始める。そのきっかけを整えることが、この森のギャラリーの役割だと思っています」

(太陽が丘で伐採された竹を使った作品も。 パイロンとしての活用を目指して。)
〜森と人をつなぐ入口をつくる〜
小林さんは、活動の根底にある思いについて、次のように語ります。
「たとえば、道に落ちている枝を見て『これで小人の家がつくれそう』と思ったり、公園で伐られた木を見て『ベンチや本棚にできるかもしれない』と考えたり。普段は見過ごしているものでも、使い方や見方を変えると価値が生まれます。何に惹かれるかは人それぞれでいいと思っています。大切にしたいのは、そうやって少し立ち止まるきっかけをつくることです。」
その視点は、特別な森の中だけに向けられたものではありません。いつもの公園、道路脇の木立ち、車窓の向こうに見える山並み。日常の中にある何気ない風景にも、見方を変えれば新しい価値や面白さが潜んでいます。
今後は、この「こもりの庭」を活用し、様々な団体とともに木育に関わる仲間を増やすための講座や、森のギャラリーのさらなるアップデートも構想しています。
森を一度整えて終わりにするのではなく、人が関わり続けることで、少しずつ育っていく場所にしていくこと。
小林さんは、こもりの庭を通して、森と人が出会い直すための入口をこれからも広げていきたいと考えています。